これは、ただのスプーン。
だけど、
わたしには、たった今 特別なスプーンになった。
これは今朝、みずから自分のぶんといっしょに
わたしのぶんも取りだしてくれたスプーン。
それは、さりげなくもたいせつに、想いつつも手放して
こぼしてきたわたしの声を 内側にうけっとって
それを自分のものとして 見せてくれた瞬間だった。
さしだされた そのスプーンは
まるで魔法のタンブルのようにわたしを光で満たした。
うれしそうに朝食をこぼさずに持っていく小さな背中を見ながら
わたしはそれを 両手でぎゅっと抱きしめていた。
2020.9.20